Blue 〜innocence

 

− 9 −

 

「それじゃあ、宜しく頼むぜ!」

「そりゃあ、こっちの台詞だ。俺たちはあんたらに命運を預けるんだ。しっかり頼むぜ」

 イノリは白川と固い握手を交わす。

「しかし、イノリ。シンの無謀な行動を諌めることの多かったお前がまさか、レジスタンスに加わるとはなあ…血の所為かね?

それとも…あのお嬢ちゃんの所為かい?」

「…そッ!そんなんじゃねえよ!!」

 顔を真っ赤にして、否定するイノリの姿に、白川は豪快な笑い声を上げた。

 それから、ふっと真顔になり、口を開く。

「ところで…うちの若いのを、界隈の軍に関係ある施設を中心に、見張りに出してたんだが…気になる情報を寄越してきた」

「…何だ?」

「将軍直属の親衛隊『ジーニアス』を見掛けたんだそうだ。確か、将軍が第四基地に行ってた筈だろう?

とすると、奴らの行き先もそこなんじゃないか?」

「何だって…!」

 イノリが顔色を変える。

「将軍が親衛隊を揃えて、何をするつもりなのかは分からんが…一応報告しておくぜ」

「分かった。情報ありがとな!!白川のおっさん!」

 慌しくそう言って、イノリは身を翻す。

 そうして、走り出したイノリは、凛々しい眉根を寄せ、険しい眼差しで前方を見据えた。

「将軍とその親衛隊のお出ましだと…大丈夫なのか、あいつら…泰明!」

 

 

ゴトリと。

立ち尽くす三人の前で、少女のもう片方の腕が落ちる。

切れたコードが散らす火花の狭間に、シュウシュウと小さな音が混じっている。

その音に気付いた泰明は、先に落ちた腕を見下ろして息を呑む。

そこからは、小さな煙が立ち昇っていた。

それは火花の起こすものではない。

鼻を突く薬品の匂い。

同時に、作り物の腕は、内側から溶け出していた。

「蘭!!」

「触れるな、天真!!」

 混乱したまま、蘭を抱き締めようとする天真を、泰明は厳しく制止する。

「何だ?これはどういうことなんだ、泰明?!」

 天真の問いに、泰明が応えるのを躊躇う間にも、蘭の身体は溶け出していく。

「…ッ!」

 どろりと、蘭の頬を覆う白い皮膚が滑るように溶け出すのを見て、泰明は咄嗟に白いスーツの上着を脱いで頭から被せた。

 少女の全身が溶け出していく様を、これ以上見るのはいたたまれなかった。

「…蘭」

 呆然とその様を見ている天真に、泰明は殊更静かな声音で言葉を紡ぐ。

「恐らく、何らかの切っ掛けで流れ出し、全身を跡形もなく溶かすよう、予め体内に薬品が仕掛けてあったのだろう…」

「俺が聞いているのは、そんなことじゃない!!蘭は…俺の妹は、こんな…金属と電気コードが詰まった身体じゃなかった…

目の前にいるのは…本当に蘭なのか?もし、そうなら、どうして…?!」

 叫ぶように言いながら、縋るように見上げてくる天真に、泰明は柳眉を寄せ、痛みを堪えるように俯く。

「この者が、お前の探している蘭かどうかは、私には分からない。すまない…」

 そう応えることしかできなかった。

 跪いていた蘭の身体が、ぐらりと大きく傾ぐ。

「蘭!!」

 咄嗟に抱き留めた天真は、上着の布越しでも、それが最早人の形をしていないことがはっきりと分かり、愕然とした。

 小さいが、耳障りな薬品の音に視線を動かすと、被せてある泰明の白い上着をも、薬品は溶かし始めていた。

「…!」

 天真は自分の制服の上着を脱いで更に上から、蘭の全身を包むように被せ、しっかりと腕に抱く。

 腕の中で、徐々に小さくなっていくもの…しかし、不思議と嫌悪感はなかった。

 否定したい思いとは裏腹に、本当はそれが誰か、分かっていたからかもしれない。

応えが返らないのは分かっていたが、無意識のうちに呼び掛ける。

「蘭…」

 そのときだった。

「……オ…オニイ…おにい…ちゃん…」

 くぐもった今にも消え入りそうな応えが、腕の中から返った。

「蘭?!」

 目を見開いた天真が腕に力を入れようとした瞬間。

 ずるりと、二枚の上着が滑り落ちる。

 薬品の匂いと白い煙を名残に、所々穴の開いた白と黒の上着が床に広がった。

 他には、何も残っていない。

「………」

 天真はそのまま俯いた。

 今は黒く染めている長い前髪が、その表情を隠す。

 そんな彼を、泰明と頼久は、ただ立ち尽くして、見詰めることしかできなかった。

 

「…泰明殿」

 暫し後、頼久が何処か労わる口調で呼び掛ける。

「追っ手はまだのようですが、早く基地から脱出しませんと…」

「…ああ、そうだな」

 頷いた泰明の、薄いブラウス越しの細さが際立つ肩に、頼久が己の制服の上着を脱いで着せ掛けようとする。

それを、静かに首を振って断り、泰明は天真を見る。

一瞬躊躇った後、そっと呼び掛けた。

「天真…」

 天真がすっと、顔を上げる。

 その顔は、やや強張っている以外は、常と殆ど変わりなかった。

「行こうぜ」

 立ち上がって走り出す天真に頷いて、泰明と頼久も走り出す。

 出口に出るまでの間、天真は一度も後ろを振り返らなかった。

「泰明殿!」

 出口では、先に基地を出た永泉が、車を回して待ち受けていた。

「皆様、早く、お乗り下さい!!」

 そう促しつつ、後から現れた天真、頼久が誰も連れていないことに、怪訝そうな顔となる。

 視線が合った頼久に、問うような眼差しを向けると、彼は沈痛な面持ちで、静かに首を振った。

 それだけで、永泉が大体の事情を察するには、充分だった。

 何も言わずに、三人を車に乗せ、荒野を街へ向かって走り出す。

 

 突然の全セキュリティ停止に、基地全体が浮き足立っている所為か、

追っ手らしい追っ手に捕まることもなく、車は市街地へと入ることが出来た。

 そこで、基地へ向かおうとしていた友雅と詩紋に、行き会う。

 目立たない裏通りに、車を停め、互いの無事を確認し合う。

「良く無事に戻って来てくれたね。安心したよ」

友雅は軽く微笑んで、レジスタンスメンバーを労う。

しかし、基地から戻って来た彼らの間には重苦しい沈黙があった。

友雅も大方の事情を察しているのだろう、急かすことなく、彼らが口を開くのを待っている。

応じて、泰明が重い口を開こうとするのを、天真が身振りで遮った。

「いいよ、泰明。俺から報告する」

 淡々とした口調で、天真は基地であった出来事を語った。

 蘭のことに触れる際には、流石に声音が揺れたが、意外なほど、落ち着いた口調で、報告を終える。

「そうか…」

 報告を聞き終えた友雅が僅かに目を伏せる。

 その瞳に、沈痛の影が過ぎったが、友雅は天真に慰めの言葉を掛けることはしなかった。

 どんな言葉も、今は虚しく響くだけだと分かっていたからだ。

 それは他の仲間も同様だった。

 そんな彼らに向かって、天真は頭を下げる。

「本部に戻ったら、また改めて言わせて貰うが…皆の協力に感謝する。有難う」

 そう言って、顔を上げると殆ど同時に、天真はくるりと踵を返して、皆に背を向ける。

「天真?」

「悪い。少しだけ…少しだけひとりにしてくれないか。すぐに戻るから」

 背を向けたまま、そう言い残して、天真は通りの角に消えていく。

 その姿を目で追った泰明は、逡巡する。

 ふと、目が合った友雅が頷くのに、背を押されて、天真の後を追った。

 角を曲がると、奥は突き当たりで、その壁に向き合うようにして天真が立っていた。

 その背に泰明は静かに近付く。

 背後で立ち止まり、無言のままでいると、天真が僅かに震えるような溜め息を吐いた。

 独り言のように呟く。

「結局…助けられなかったな……」

「……」

「俺が見付けたときにはもう、蘭はあの工場のロボットみたいに、脳を取り出されて、機械の身体に移植されてたんだな……

そのときに蘭は、蘭じゃなくなってしまったんだ。遅過ぎたんだ。俺は間に合わなかった。蘭を助けられなかったんだ……」

「そのようなことはない」

 そこで初めて、泰明が口を開き、きっぱりと言う。

「移植された脳の記憶が変容するのは事実だが…それは確かに蘭のものだ。その指令に従って動く身体も、例え、機械だとしても蘭だ。

それに、蘭は最後にお前を呼んだではないか。恐らく、お前の行動が失われていた筈の、蘭の記憶を呼び覚ましたのだ。

お前は蘭を救うことが出来たのだと…私は思う」

「………そうか」

 無垢な瞳で天真を見詰め、懸命に言い募る泰明に、天真は小さく笑う。

 天真は基地を脱出した時からずっと、蘭の身体を覆っていた泰明と自分の上着を持っていた。

「ああ、そういや、お前の上着も借りてたままだったな…」

 思い出したようにそれを拡げながら振り向く。

「気にするな」

「気にするなったって、無理だぜ、そんな薄着のままで…けど、穴だらけだな…」

 二枚重ねた上着を泰明に着せ掛けようとして、苦笑する。

 その笑顔が、不意に崩れそうになる。

 それを隠すように、着せ掛けようとした上着ごと、泰明の華奢な身体を強引に引き寄せ、抱き締めた。

「悪い…少しだけ……」

 天真は泰明の首筋に顔を埋めるようにして呟き、抱き締める腕に力を篭める。

 他に天真を慰める術を知らない泰明は、ただ、天真に身を任せることしか出来なかった。

 

 

「閣下、『ジーニアス』が参上致しました」

「そうか。では、手筈通りに動け」

「は…やはり、切り捨てられますか?」

「そうだ」

 傍に控える参謀中将の問いに、気のない様子でアクラムは応える。

「特殊能力者の能力発現は、多くが環境に左右される。必要なのは、どんな環境にあっても、自在に能力を引き出すことの出来る能力者だ。

洗脳を施すだけでは、その問題は解決しない。

ならばと、研究員らが、実験中に心肺停止状態となった能力者の脳を移植したロボットを寄越してきたが…やはり失敗だったな。

ロボットとしては役に立つが、能力は殆ど失われている。戦闘用としても、「模造天使」には遥かに劣る」

「次こそは成功させると、研究員らは申しておりますが…」

「失敗は一度で充分だ。私は無能者はいらぬ」

「は」

 不意に、アクラムが愉しげな笑みを零す。

「しかし、研究員らが差し出したロボットは、別の意味では役に立った。お蔭で、欲しいものが手に入る」

「は…」

 歯切れの悪い参謀中将の返事に、アクラムは小さく笑う。

「何だ?言いたいことがあるのならば、言え」

 中将は躊躇いながらも口を開く。

「……以前にも申し上げたことです。「あれ」を手に入れて、何をなさるおつもりなのですか?

「あれ」は最早、軍の意向に従うことはないでしょう。却って軍を…閣下ご自身を危険に晒すことになりはしないでしょうか?

それでも尚、閣下は欲しいと仰る。分かりません、貴方の考えておられることが…」

「そうか」

 アクラムは以前と同じ乾いた笑い声を上げる。

 だが、中将に向けた笑みは、意外なほど穏やかであると同時に、自嘲に満ちていた。

「実のところ、私自身も良く分かっていないのかもしれないと今になって気が付いた」

「閣下…」

 絶句する中将に、冷えた眼差しを取り戻したアクラムは、常のように嗤ってみせる。

「さて、欲しいものをこの手に掴む為に、私も動くとするか」

 

 

 暫くして、天真は泰明の両肩に手を掛けて、そっと身を離した。

「悪かったな、泰明」

「いや…」

「お前のお蔭で、少し気が楽になった、サンキュ」

「私は何もしていない」

「いいから、そういうことにしとけって」

「?」

 首を傾げる泰明の漆黒に染められた頭を撫でて、天真は身を翻す。

 ちょうどやって来ていた友雅に向かって、擦れ違いざまに、軽く舌を出して見せた。

 それに、友雅は苦笑混じりの笑みを返す。

 肉親を失った痛みは、簡単に癒せるものではない。

 しかし、強がりであっても、天真は前へ進もうとしている。

 先程まで天真を包んでいた張り詰めたような危うさが消えていることに、友雅は安堵する。

「泰明」

 そのことに大きく貢献したであろう泰明に呼び掛けると、彼はぴくりと細い肩を震わせ、ゆっくりと振り返った。

「…友雅」

「泰明?」

 少し様子がおかしい。

「どうしたのだい?」

 気遣わしげに問う友雅を、泰明は愁いを帯びた眼差しで見る。

「もしも、私が…」

 柔らかな唇が紡ごうとする言葉を遮るように、友雅の携帯端末が音を立てた。

 緊急を告げるその音に、泰明はすっと怜悧な表情を取り戻し、友雅も厳しい表情で端末の通話ボタンを押す。

『友雅殿!』

 連絡は本部にいる鷹通からだった。

「どうした、鷹通?」

『今、おられる場所から第四基地が見えますか?』

「表通りに出れば、遠目になら見ることは出来ると思うが」

 応えながら、友雅は踵を返す。

 泰明が走り寄って来て、そんな友雅と並んだ。

『ならば、御確認をお願い致します!現在、私が故意に止めたセキュリティ以外の基地の全システムが停止しているようなのです。

もしかしたら…!』

 その言葉が終わらないうちに、ドン、と大きな音が鼓膜に響いた。

 通りに出たふたりが目にしたのは、荒野の上空に広がる赤い炎だった。

「基地が…燃えている?!」

「友雅!泰明!」

 近くにいた天真が駆け戻って来る。

「一体、どういうことなんだ、これは?!」

「さあ、どういうことなんだろうね…」

 険しい表情で言いながら、友雅は思考を巡らせる。

 この基地の爆発炎上は、軍…将軍の差し金だろう。

 だとするなら、気になるのは、これからの軍の動きだ。

「取り敢えず、我々は急いで本部へ戻ろう。目立たぬよう分散して、それぞれ違うルートで戻る。

鷹通は敵の急襲に備えて、本部の警備を固めておいてくれ」

『分かりました』

 次いで、周囲の確認の為に一旦散らした仲間を、端末で呼び出そうとした友雅だったが、途中で思い止まる。

 通りは今や、基地の爆発に驚いた近所の住民や、通りすがりの野次馬で溢れている。

 この混乱の最中、無闇に通信をするのは、却って危険かも知れない。

 その意図をすぐさま察した天真は、身を翻す。

「皆、それほど離れた場所には居ない筈だろ?なら、直接探した方が早い」

「そうだね。頼んだよ、天真」

「私も別の方向を探す」

「…ああ、気を付けて」

 泰明の言葉に、友雅は一瞬躊躇ってから、頷いた。

 その躊躇いには気付かずに、泰明は長い髪を翻して駆け去っていく。

 何故、躊躇ったのかは、友雅本人にも分からなかった。

 人波に紛れる細い背中。

 その儚げな外見に反して、泰明が充分に強いことを、友雅は知っている。

 今から、敵地に乗り込む訳でもない。

 ただ、仲間を探しにこの辺りを巡るだけだ。

 友雅は僅かに苦笑して、物思いを振り切るように軽く首を振った。

 

 

 人気のない路地で泰明は立ち止まった。

 先程、永泉を見付けて、話を伝え、それからも一帯を駆け巡ってみたが、仲間は見付からなかった。

 天真の方で、仲間全員を見付けたのかも知れぬ。

 そう考え、踵を返そうとした泰明は、不意に背筋を走った寒気に身を固くする。

 警戒しながら、振り向いた泰明は、次の瞬間、安堵の息を吐いた。

「詩紋」

 どうやら、気の所為だったようだ。

「どうしたんですか、泰明さん?」

 詩紋が気遣わしげに、青い瞳を瞬かせながら問うてくる。

 泰明が、基地が爆破されたことを伝えると、詩紋が白い頬をますます白くした。

「一先ず、我々はレジスタンス本部に戻る。万が一にも敵に見付からぬよう、分散して行くそうだ。この辺りで、他の仲間の姿は見なかったか?」

「いいえ。他の皆は見てないです。実は僕、ちょっと皆とはぐれてしまって…探してたんです」

 申し訳なさそうに言う詩紋の肩を、泰明は宥めるように叩く。

「ならば、私と一緒に戻ろう」

「はい」

 頷いて微笑む詩紋に笑みを返し、泰明は先頭に立って歩き出そうとする。

 その次の瞬間。

再び背筋を駆け抜けた悪寒に、泰明は無意識のうちに身体を捻った。

 響く銃声。

 振り向いた泰明の見開いた瞳に、銃を構える詩紋の姿が映った。

「詩…紋…?」

 左肩が熱い。

 硝煙をあげる銃口を確かに泰明に向けながらも、詩紋の表情は悲しげだった。

 その表情が、徐々に白く霞んでいく。

「ごめんね、泰明さん。ごめんね……」

 悲しげな詩紋の言葉も、徐々に遠ざかっていく。

(何故…?)

 問いを口に出来ぬまま、己の意思に反して、身体が地に崩れ落ちるのを泰明は感じた。

 ブラウスの胸ポケットから、携帯端末と共に、何かが転がり落ちる。

 霞む視界が闇に包まれる寸前、泰明は金の長い髪が揺らめくのを見た。

 

 

「!あれは…!」

 路地から裏通りに入ったイノリは、前方に、黒い軍服の男たちに囲まれるようにして、車に乗り込もうとする金髪の青年の姿を見た。

 豪奢な金髪を背に揺らす青年は、その腕にぐったりとした人物を抱えていた。

 白い服を纏ったほっそりとした身体。

 力なく垂れる細い腕と共に、儚く揺らめく艶やかな長い髪の色は違ったが、イノリには一目でそれが誰だか分かった。

「泰明!!」

 叫び声に、泰明を抱いた青年は振り向き、端整な唇を嘲笑の形に歪める。

 その勝ち誇ったような笑みに、イノリはかっとなり、そちらに向かって駆け出す。

「待ちやがれッ!!」

 その言葉を聞くことなく、その秀麗な姿は、車内へと呑み込まれる。

 続いて車に乗り込もうとする人物の姿に、イノリは凍り付いたように立ち止まった。

「…ッ詩紋?!」

 その呼び掛けに詩紋は、僅かに振り向くように顔を傾けたが、イノリと目を合わせることなく、車内へと消えた。

「ま、待てよッ!!」

 我に返ったイノリが再び駆け出そうとするのを、軍服の男の一人が放った銃弾が押し留める。

 続けて打ち込まれる銃弾に、咄嗟にイノリは建物の蔭に身を潜めた。

 その間に、車外に残っていた男たちも収容して、車は走り去っていった。

 

 

 路地の真ん中で、友雅は立ち尽くす。

 異常に気付いて、駆け付けたときはもう遅かった。

 硬い地面に残る血痕。

 取り残されるように落ちている端末と…

 泰明が連れ去られた状況を皆に話すイノリも、混乱を隠せず、最後に吐き捨てるように言い放った。

「訳が分からねぇッッ!!」

 皆も並々ならぬ衝撃に、呆然としている。

「まさか、詩紋が…」

「信じられません……」

「ちくしょう、何てこった…泰明!!」

 友雅はゆっくりと歩を進め、落ちていた小さなプラスチックケースを拾う。

 青い硝子の欠片のたくさん詰まった…泰明の宝物だ。

 何故、将軍が泰明を攫ったのか。

 何故、詩紋が裏切ったのか。

 それは、今考えても、答えの出ない問いだ。

「…だが、私たちのすべきことは決まっている」

 不思議に落ち着いた声音で友雅はそう言った。

 そうして、突然自らの拳を傍らの建物の壁に叩き付けた。

 石造りの壁に力任せに叩き付けられた手の甲は傷付き、瞬く間に赤い血を滲ませる。

 その激しさに息を呑む一同の前で、友雅は変わらず落ち着いた、しかし、底知れぬ気迫の篭った声音で言葉を紡ぐ。

「これは、将軍からの挑戦状だ。我々はそれを受けて立つ。そして…」

 脳裏に別れる前に見た泰明の心細げな姿が甦る。

 

『…友雅。もしも、私が…』

 

 友雅は傷付いた手で、プラスチックケースを固く握り締め、言葉を継いだ。

「そして、必ず泰明を取り戻す」

 


the end? or...
怒涛の展開を迎えて、「Blue 〜innocence〜」終了で御座います! このラストに驚いて下さいましたのなら、私としてはしてやったり…いえ、すみません(汗)。 むしろ各キャラのファンの方々に謝った方が良いですかね…?(ドキドキ) 報われなくしてすみません、天真ファンの方!! いや、でも見ようによっては、報われているんじゃないかと…やっすんに癒してもらったし。←言い訳がましい。 裏切り者にしてしまって、すみません、詩紋ファンの方!! 実は彼の登場章「Blue 〜knot〜」から、このことは少々匂わせておりました。 また、「knot」は「縁」「絆」という意味の他に、「困難」という意味もあり、それが裏切り者の登場ということだったと。 しかし、この最終話、詰め込み過ぎで、天真の見せ場がぼやけてしまったかも…(汗)。 何せ、ラストに姫が攫われるという大事件が起きてしまいますからねえ…ごめん天真。 アクラムにしてやられて、ぶちギレる友雅氏がちょっと書いてて愉しかったなんて言えません(言ってるよ)。 当初、予想していたよりも、コンパクトに纏めることが出来て(?)、それは良かったです。 とはいえ、一話の分量が増え、更に、今回の最終話は、ほぼ二話分の量となるので、 実質的には最も長い章になったと思いますけど。 約半年掛ったしね!(苦笑) ここまでお付き合い下さった皆様、本当に有難う御座いました!!(平伏) さて、次章はついに最終章となります! タイトルも既に決まっております、「Blue 〜eden〜」です。 姫救出を巡って、レジスタンスVS軍の闘いの火蓋が切って落とされることになります、多分(笑)。 次章も宜しくお付き合いくださいましたら、幸いです♪ back top next