落葉
今日は勤めを終えた後、父の邸を訪れた。
久し振りに会った父は、変わらず元気だった。
だが、以前顔を見たときよりも、少し老けた気がした。
それは気のせいではなく…しかし、父はこれが自然のことなのだと満足そうに笑っていた。
その帰りのことだ。
邸の出口へと向かう途中、結界の森の中で迷ってしまった。
呪を掛けられた森とはいえ、以前ここに住んでいたときはそのようなことはなかったのに。
やはり久し振りに訪れた所為だろうか。
それとも…
目前をひらりと紅い紅葉が舞った。
この辺りは、冬になっても葉を落とさぬ常緑の木々が多いが、落葉樹がない訳ではない。
落葉の鮮やかな紅に惹かれて顔を上げた如月は、ふいに立ち止まった。
大きな紅葉の木蔭に、背は高いが、細身の青年が佇んでいる。
この邸を離れるとき、忘れようと心に決めて、それでも忘れられずにいた人物。
…泰明。
少女の可憐さと少年の凛々しさを併せ持った白い美貌と、流れる翡翠色の艶やかな髪が、
頭上に覆い被さるように垂れ下がる紅葉に飾られている。
常に心に思い描いていた姿よりも、実際に見る姿は輝くように美しく見えた。
泰明は離れた場所に佇む如月に気付いていないようだった。
花弁を思わせる唇を僅かに綻ばせて、今、泰明が見詰めているのは、目の前にいる人物だけだ。
その姿は木々の葉蔭に殆ど隠され、如月の位置からは良く見えない。
しかし、その人物が泰明にとってのどのような存在であるかは、泰明の様子から手に取るように分かった。
かつて、泰明の美しい顔の半分を覆っていた痣のような封印を解いた相手。
泰明の恋人だ。
その手が伸ばされ、風に少し乱れた泰明の長い前髪を梳き、そのまま白い頬を包むように触れる。
その手に頬を摺り寄せるように、僅かに華奢な首を傾げた泰明が花のように微笑む。
そんな泰明の表情、仕種の全てから相手に対する信頼と愛情が見て取れた。
彼の輝くような美しさの理由も恐らく……
すると、相手に手を引かれたのだろう、泰明の細い身体が傾ぎ、葉蔭に見えなくなる。
そこで、我に返った如月は、居たたまれなくなって、逃げるように背を向け、その場を離れた。
来た道を戻りながら、視界から消える寸前に目にした泰明のやや驚いた表情を思い出す。
大きな瞳を丸くしたあどけない表情は、その一瞬後には笑顔に変わりそうな優しい甘さを持っていた。
そうして、微笑んだ泰明は今頃、恋人の腕に抱かれているのだろうか。
その口付けを受けているのだろうか……
…ふいに胸が刺されるように鋭く痛んだ。
何故、自分ではないのだろうと思う。
泰明が幸せそうに微笑む相手が。
そんな彼を抱き締め、口付ける相手が。
今更、そのようなことを考えても仕方がない。
いや、今更…ではなく、元より自分にはその資格がなかったのだ。
例え、何があっても、泰明は今の恋人を選び、自分はそれを遠くから眺めるだけ。
…それが運命。
そう自分に言い聞かせて。
それでも、考えてしまう。
もしも、あのとき、泰明に手を差し伸べることができたのなら。
自分の想いを伝えることができたのなら。
今、泰明を抱き締めているのは、この自分だったのかもしれない。
この腕の中に…すぐ触れられる場所に、彼の華奢な身体があったのかもしれない。
…しかし、現実は違う。
泰明は違う男の腕の中に在り、自分はただ独り。
今の自分には決して辿り着くことはできない、夢よりも遠い場所に、泰明はいる。
後悔とも愛惜とも憧憬ともつかぬ複雑な感情が胸の中で渦を巻き、息が詰まりそうだった。
そんな如月の目の前をはらりと紅葉が舞う。
そこに今も尚、胸の片隅に留まり続ける翡翠色の幻を見た。
七葉制覇ラストのおまけ話、お相手は「お任せ」でした(笑)。 どうぞ、やっすんにお似合いだと思われる七葉他(笑)を当て嵌めて御覧になってみて下さいませ♪ タイトルは「落葉」で「らくよう」とお読み下さい。 その方が語感的に「おちば」よりも、寂しげな感じがするので(あくまでも個人的な感覚では/苦笑)。 そんな訳で、このお話は「如月→やっすん」の切ない片想い話ともなっております(というかメイン…)。 如月は、お師匠の養子のひとりです(「花精」から始まるタイトルの当サイト駄話参照)。 また、当サイト設定では、後につぐりんのお師匠となる○平と同一人物ということになっております(笑)。 これで本当の七葉制覇のラストということで、今年のコンセプトのネタばらしをしましょうかね(笑)。 今年のコンセプトは、「ちゅうでらぶらぶ♪(爆笑)」でした。 何のことはない、話の中にキスシーンがあるというだけのことです(苦笑)。 あともうひとつ、やっすんのチャームポイントを改めてピックアップしよう!ということで、 メインの七葉話は、髪→瞳→唇(声)→項(首)→指(動作)→腰→脚を特に強調するように描写してみました。 上手くいっていないのもありますが…(汗) しかし、やっすんのチャームポイントはまだまだありますよね!! そんなあらゆる魅力を兼ね備えてこそのやっすんであり、 逆にそれらはやっすんがやっすんであるからこそ、魅力足り得るものとなっているのです、結局は(笑)。 戻る