蕾ノ睡―桔梗姫恋語―
「…ああ、今宵の月は澄んで美しいね」
小さな窓枠にくっきりと切り取られた夜空。
その片隅に輝く月を見上げて呟くと、腕の中の泰明が身じろぎして、ゆっくりと身を起こした。
「すまないね、起こしてしまったかい?」
「…いや、ちょうど目が覚めたところだったのだ」
先程まで捕らわれていた夢の名残か、或いは、その前に身体に刻まれた熱の余韻か、若干気だるげな声で応えた泰明は、
友雅の腕の中を抜け出し、褥から木床を染める月の光に誘われるように窓際に寄った。
ほっそりとした身体を覆う薄手の衣の襟は、胸元ばかりが、片手で無造作に合わせられていて、
大きく開かれた襟からは、磨かれた象牙のように滑らかな肩口が覗いていた。
清しい色香を纏う稀有な肢体を、格子越しに差し込む白い光が神々しく照らす。
無垢な眼差しで月を見上げる姿は、昔語りに聞く仙姫のように麗しく、幻想的ですらあった。
そんな泰明の様子を、褥に横たわったまま、立てた肩肘で頬杖を付いて、友雅は半ば見惚れるように眺めていた。
すると、泰明が何かに気付いたように、小さな声を上げる。
「あ…」
「どうしたんだい…?ああ…」
ゆっくりと身を起こした友雅は、床に座る泰明へと近付き、その華奢な肩を抱き寄せながら、泰明の視線の先を追い、端整な口元を綻ばせた。
空に掛かる真白き月に焦がれるように伸ばされた枝葉。
しかし、その葉は眠るように閉じている。
「友雅、この木はもしや…」
「ああ、合歓木だよ。覚えているかい?」
「…ああ、覚えている」
「三年…いや、四年前か…思い出すと、まるで昨日のことのようだね…」
泰明が頷きながら、小さな頭を友雅の肩口に預けてくる。
無意識であろうその仕種に友雅は小さく微笑み、絹糸のように輝く髪を愛しげに梳き撫でる。
切り取られた夜空に浮かぶ月と合歓木を眺めながら、ふたりは過ぎし日に思いを馳せた。
春の終わりに亡くなった先代主人の喪が明けた。
服喪中は営業を控えてきた妓楼も、明晩から新しい主人の下で、本格的な営業を始める。
ひとり、自室に引き篭もって読書をしていた泰明は、集中できずに書物を閉じた。
新しい主人は、泰明の養父であった先代主人が病を得て、動けなくなる前に、自ら探し出したという人物だ。
この人物なら、妓楼と大切な養い子を任せられると、その後のことを頼み、相手も快く引き受けてくれたと言う。
しかし、泰明はまだ、この新しい養い親と顔を合わせていなかった。
病床にあった養父が何も心配することはないと、自分と同じように、新しい親にも甘えて良いのだと言ってはくれたが…
同じように出来るとは思えなかった。
泰明にとっての親は、亡くなった養い親ただ一人だ。
別の誰かがその代わりになれるとは思えなかったし、なって欲しくはなかった。
向こうは先代主人の養い子に気を遣って、先代主人が亡くなってから、幾度もこの部屋まで挨拶に来てくれたが、
気が進まなかった泰明は、その度に顔も見せずに、追い返していた。
流石に、相手も気分を害していることだろう。
このままでは、この妓楼に泰明の居場所が無くなるのは、時間の問題だ。
病の身で、己の行く末にまで心を砕いてくれた養父の意向に従うのが、一番良いことは分かっている。
だが…
俯くと、頭上で束ね、結われた長い髪が、白鼠色の地に小振りの薔薇を散らした着物の肩を滑り落ちる。
さらりと心なしか憂鬱な音が空気を揺らした。
そのとき、窓に取り付けられた木の扉が外側から叩かれ、次いで少年の声がした。
「泰明、俺」
「天真」
窓を開けると、幼馴染の少年の明るい笑顔があった。
「久し振り。喪中の時は、会えなかったけど、元気だったか?見たとこ、病気とかはしてねえみたいだけど」
天真の言葉に泰明はこくんと頷いて、微笑む。
「天真の笑顔を見ると、元気になる。来てくれて嬉しい」
しかし、淡く可憐な泰明の笑顔には、隠しきれない心細さが滲んでいた。
天真はふと、真面目な顔になり、窓枠に手を掛けながら、身を乗り出した。
「どうした?何があった?もしかして…新しい養い親に何かされたのか?」
「いや、何もない。何も…」
「何もないって顔じゃないだろ。じゃあ、他に何か気になることでもあるのか?」
真剣な顔つきの天真に更に問いを重ねられ、泰明は一旦口を噤む。
そうして、躊躇いつつも、今の己の心の内を打ち明けた。
すると、天真は何でもないことのように、さらりとこう言った。
「じゃあ、ここから出ようぜ」
「ここから…?この妓楼を出るということか?」
「そ。嫌なら、無理して新しい主人の世話になることなんかねえだろ。どうしても、ここで暮らしてかなきゃいけない訳でもなし」
そう言って、笑った天真は身を乗り出して泰明を誘う。
「な、泰明。俺と一緒に行こうぜ。一緒にこの妓楼から、この花街から出よう。ふたりでだったら、絶対外の世界でも暮らしていける。
俺が暮らしていけるようにしてやる。あ…勿論、お前が嫌じゃなかったらの話だけどさ」
どうだ?とやや緊張した様子で訊ねる天真に、泰明は頷いた。
今まで、殆ど妓楼から出たことがない泰明には、外の世界がどのようなものか、想像も付かなかったが、だからこそ、興味があった。
それに、泰明はこの一見粗雑だが、思いやりのある優しい幼馴染が、好きだった。
彼と共に、未知の世界に繰り出すことは、とても魅力的に思えた。
泰明の応えに、天真は照れたように、同時に、とても嬉しそうに笑った。
天真に手招きされ、泰明はそっと人気の無い廊下に出る。
雇い人たちの殆どは、明日から始まる営業の準備で、妓楼の表に出ているのだろう。
それでも、充分に注意して廊下を渡り、小さな勝手口から、天真の待つ裏庭へと出た。
戸口で待ち受けていた天真は、自分の履き物を脱いで泰明に履かせ、細い手を引いて近くの塀に寄る。
茂みに身を隠しながら、まずは天真が塀に上り、外の様子を確かめてから、泰明に手を貸して塀を越えるのを手伝った。
裾の長い着物は動きにくかったが、元より身軽な泰明は、天真に手を貸して貰ったこともあって、
さして苦労することなく、塀の外側に降り立つことが出来た。
下りた場所は、妓楼と妓楼の間の路地だ。
天真が再び泰明の手を引いて歩き出す。
ふたりは、誰にも見咎められることもなく、長いその路地を歩んだ。
これならば、街の外へ出ることもさして難しくはないのではないかと感じられるほどだった。
しかし、同年代の少年に比べれば、物を知っている天真も、所詮は子どもに過ぎない。
そして、年齢以上に世間知らずの泰明もまた、幼かったのだ。
ついに路地の終わりが見えてくる。
路地を抜けた大通りには、流石に夜ほどではないにしろ、人の行き来があった。
「道を見てくる。ちょっと待ってろ」
泰明が素直に頷くと、天真は泰明を目立たない塀の蔭に連れて行き、身を翻して通りへと出て行った。
ひとり残された泰明は、興味深げに周囲を見渡す。
今まで越えることのなかった塀の外に、己は立っている。
たった一枚の塀で隔てられた世界に出るということだけでも、泰明にとっては新鮮な体験だった。
目に入る景色も新鮮で、見慣れたものすら、視点が変わる所為か、物珍しく感じられた。
そうして、周りを観察している泰明の目に、ふと、緑と淡紅の色が映り込む。
少し離れた先にある塀の上に、塀の内に植えてあるのだろう木の枝が伸びている。
「…花か?」
葉の緑から垣間見える淡紅色に惹かれて、泰明は木の枝の近くまで歩み寄った。
そうして見上げてみると、初めて見る木だ。
沢山の小さな羽根が二列に並んでいるような葉の形も面白いが、細い糸を束ねて拡げたような花の形も面白い。
あれは花弁ではなく、雄しべだろうか。
首を傾げるようにして、一心に花を見上げていた泰明は、やがて微かに柳眉を顰めて、己の足元を見る。
長い着物の裾は、石畳の道に引き摺られて、すっかり汚れてしまっている。
次いで、泰明は天真が出て行った路地の出口を見る。
天真が戻ってくる気配はない。
「……」
そうして、もう一度花を見上げた泰明は、暫し考えるような間を置いた後、無造作に着物の裾をたくし上げた。
「やれやれ…」
休憩の為に一度戻った自室で、友雅は溜め息を吐いた。
明日から再出発する楼の営業の段取りは概ね整えられた。
先代主人が存命の頃から、引継ぎをしていたお蔭で、抱える花妓や、雇い人も戸惑うことなく、新しい主人の下で、着々と準備を進めている。
妓楼の営業については、何の問題もない。
しかし、もうひとつの重要な問題が残っていた。
先代主人から託された養い子のことだ。
その子をとても慈しんでいたのであろう…実の子だという噂も聞いた先代主人は、
何を置いても、大切に守り育てて欲しいと友雅に言い置いていった。
約束を反故にするつもりは友雅にはなかったが、当の養い子が、今に到っても、友雅に懐くどころか、顔を合わせようともしない。
突然現れた、しかも、十やそこらしか歳の離れていない男を、親と思えと言うのも無理な話だとは思う。
それならそれで、親子ではない新しい関係を築けば良いだけだ。
しかし、始めからここまで毛嫌いされてしまうと、それもまた、難しいかもしれない。
いや、正確には嫌われている訳ではないのだろう。
何せ、嫌われるほどの関わりすら、未だないのだから。
多少人見知りをする子だとも聞いていたから、友雅の存在に不安を覚え、警戒してしまっているのだろう。
せめて、一度でも顔を合わせ、言葉を交わすことが出来れば、多少なりともその頑なな心を和らげることが出来るかもしれないのだが。
庭に出た友雅がもう一度、溜め息を吐いた、そのとき。
ちょうど目の前にあった合歓木の花枝が揺れた。
鳥が止まったにしては、揺れが大きい。
ならば、猫が戯れに木に登ったか、或いは…
不審に思った友雅が、木に近付いていくと、緑の葉と淡紅色の花の合間から、白鼠色と薔薇色の着物の裾が覗いているのが見えた。
枝が揺れるのに合わせて、揺れる裾から時折、白い素足が垣間見え…
「あ…っ」
すると、若干慌てたような小さな声がして、友雅の足元にぽろりと小さなものが落ちてきた。
小さな薔薇の造花で作られた簪。
次いで、頭上からさらさらと翡翠色の絹糸が、流れ落ちてくる。
「…あ」
木の下から見上げる友雅と目が合って、再び小さな声を上げたのは、美しい子だった。
身動きする間に、髪を結っていた簪が花枝に引っ掛かって落ちてしまったのだろう、
枝に掴まって、困ったように、地面に落ちた簪と木の下に佇む友雅とを交互に見ている。
薔薇模様の着物を纏ったほっそりと華奢な肢体と、その細い身体の線を更に強調するように、肩や背を覆う癖のない長い髪。
滑らかそうな淡い桜色の肌と、あどけなさを残した繊細な美貌。
一見、少女と見紛うほどの容姿だが、その子が少女ではないことを、友雅は知っていた。
「何をしているの?」
笑みを含んだ声で優しく訊ねると、その子は躊躇いながらも花弁のような唇を開く。
「この花の形が珍しく見えた故、もっと近くで見てみたくて…」
「この合歓木の花をかい?」
「ねむの木?この木は合歓木と言うのか?」
翡翠と琥珀の宝玉のように澄んで大きな色違いの瞳が、幼げな瞬きをした。
その愛らしさに思わず微笑んでしまいながら、友雅は頷いてみせる。
「そう、合歓木。この木の葉はね、夜になると眠るように閉じるんだ。だから「ねむ」の木、と言うのだよ」
「そうなのか…」
興味深げに目の前の花枝を眺めていたその子は、ふと、何かに気付いたように、悄然と項垂れる。
「すまない、勝手にそちらの庭に忍び込んでしまって…」
そんな子を宥めるように、友雅は微笑み掛ける。
「構わないよ。君のように可憐な姫君が忍んで来てくれるのなら、何時でも大歓迎だよ。とはいえ、何時までも木の上では居心地が悪いだろう?
この落し物も渡したいし、良かったら下りておいで」
足元の簪を拾いながら促すと、その子はこくんと素直に頷いた。
「ひとりで下りられるかい?」
「問題な…ッ!」
応える途中で、己の長い着物の裾に片足が引っ掛かって、足を滑らせる。
咄嗟に、腕を伸ばして枝を掴むが、生憎、その枝はその子の軽い体重すら支えられないほど細かった。
「…ッ!!」
「泰明!」
一瞬後、その細い身体は、友雅が広げた腕の中に飛び込むように収まっていた。
その瞬間、ふわりと花のような香りが漂う。
「大丈夫かい?泰明」
「大丈夫だ、問題な…」
頷き掛けたその子…泰明は己の右手に折れた花枝があるのを目にして、哀しそうな顔となった。
「すまない…せっかくの枝を……」
「ああ、そんなに落ち込まないで。折れた枝は、すぐに水に生ければ、死にはしない、大丈夫だよ。とにかく、君に怪我がなくて良かった」
優しく宥められて、ようやく落ち着いた泰明は、花枝を抱え、友雅に抱えられたまま、再びふと首を傾げる。
「…お前は何故、私の名前を知っているのだ?」
「ああ」
腕の中で、翡翠色の長い睫を瞬かせて、心底不思議そうに見上げてくる泰明が、何とも可愛らしくて、友雅は声を立てて笑う。
「君の話は、養父君(ちちぎみ)からよく聞かされていたからね。遠目だけれど、君の姿を見たこともあるよ。
しかし、こんな形でお出ましとは驚いたよ、お転婆な姫君だね」
「…?」
更に、首を傾げた泰明が答えに辿り着く前に、友雅は泰明の顔を覗き込むように顔を寄せて、笑みを含んだ声で優しげに話し掛けた。
「ようやく会えたね。初めまして、泰明。私は橘友雅。何度か部屋にも挨拶に伺ったから、名前くらいは覚えておいでかな?」
「…ッ!」
そのとき、友雅の正体を悟った泰明の桜色の頬が、紅色に染まった。
「こんなに綺麗な子のお世話をさせて頂けるなんて光栄だね。尤もそれが叶うのは、君自身のお許しを頂いてからだけれど…」
抱え上げた泰明の華奢な身体が慌てたように身じろぐのを、包むように抱き締めながら、友雅は微笑んだ。
泰明の部屋と、友雅の部屋は広大な妓楼の敷地の端と端にあった。
妓楼の敷地がどれだけあるか理解していなかった泰明は、
塀を越えてから、歩いた距離の感覚で、己のいた妓楼からはとっくに離れたものと思い込んでいた。
故に、合歓木がある庭は、別の楼のもので、そこで出逢った友雅も、別の楼の人間だと勘違いしていたのだ。
塀を越えて、妓楼の外に出た筈が、花に惹かれたとはいえ、結局自ら妓楼の内に戻ってしまったという己の所業に、
泰明は全身が真っ赤になるかと思うほどの羞恥を覚えたのだったが…
不意の事故で折ってしまった合歓木の花枝は、泰明の部屋に飾られた。
泰明は飽きることなく、その珍しい花と葉の形に見入り、友雅に教えられたとおり、夜になって葉が閉じたのに、色違いの瞳を煌かせた。
途中で別れたきりになってしまった天真のことだけが気掛かりだったが、その日の夕方になって、天真自身がやって来た。
彼もまた、泰明と別れた後に、廓組の若衆に捕まってしまい、目的は果たせず仕舞いになってしまったと言う。
それでも天真は諦めずに、少年らしい一途さで、泰明を外へと誘ったが、泰明は首を振った。
外の世界に出るには、己は余りにも世間知らずに過ぎたし、逃げ出すようにこの街を出ても、意味がないと分かったからだ。
いつかは、外の世界に出てみたいとは思う。
しかし、それは今ではない。
それに、妓楼に留まることを嫌がる理由もなくなった。
先入観のない状態で顔を合わせたのが効を奏したのか、その後、泰明はすっかり友雅に懐いてしまったのである。
「あのときの君は、悪戯好きの子猫のようでね…」
「…友雅」
愉しげに思い出し笑いをする友雅を、泰明が軽く睨む。
が、すぐに表情を和らげて、信頼の眼差しで、友雅を見上げた。
「あのときからずっと、友雅は我が子のように、私を大切にしてくれた。故に、私も安心して甘えることが出来た。感謝している」
「我が子のように、ではないよ」
「え?」
泰明が大きな瞳を瞬かせる。
長い睫が優美に揺れる。
それに、友雅は笑みだけを返し、心の内で呟く。
子どもではない。
友雅にとって、泰明はあの頃から、子どもではなかった。
今、目の前にある合歓木はまだ、花開いてはいない。
しかし、枝には閉じた葉に紛れるようにして、幾つもの小さな蕾があり、開花もそう遠くないと思われる。
「花が咲いたら、君のところに届けようか。それとも、また、木に登って見るかい?」
からかうように問うと、泰明は少々考える間を置いてから、首を振った。
「友雅とふたりで、ここでこうして眺めるのが良い」
「それで良いのかい?」
『外』に出たいとは思わない?
何処か曖昧な問いに、しかし、泰明は躊躇わずに頷く。
「良い。友雅と一緒の方が、きっと花も美しく見える故」
言って、月光を浴びながら、ふわりと花のように微笑んだ泰明の目元に、友雅は口付けた。
「そうだね…では、花が咲いたら庭に出て眺めようか、ふたり一緒にね」
ふたりで『外』へ。
嬉しそうに頷く泰明にもう一度口付けて、友雅は腕の中の細い身体を更に引き寄せるようにして横たえる。
無垢な眼差しで友雅を仰ぐ泰明。
「友雅?」
「さて、今は一足先に別の花を愛でようか。この世の何より美しい花をね…」
目を細めて囁いて、友雅は、今度は、白く艶やかに輝く肩口に口付け、唇を滑らせて、
所々に紅い花の散る滑らかな肌に、新たな花を咲かせていく。
「あ…ッ…」
驚きと恥じらいに揺れる小さな声音が、心地良く耳を擽り、再び染まり始めた肌が、甘く清しく香り立つ。
月明りの下に晒された肢体が、優艶な輝きを増す。
あの頃は眠っていた蕾。
それが今や、艶やかに咲き綻び、あらゆる花客を魅了する花となった。
無垢で清らかな心を保ったまま、それをも人を惹き付ける魅力のひとつとして。
しかし、この稀有な花が真に咲き乱れる姿を、愛で愉しむことが出来るのは自分だけだ。
これまでも、これからも。
何せ、自分は蕾の頃から惹かれていたのだから。
我ながら呆れるほどの独占欲だが、この花が相手ならば仕方がない。
こうまで、自分を狂わせるのはこの花だけ。
そんな自分を可笑しく思いながら、友雅は再び花の色香に溺れていった。