企画 伍★頼久×泰明
不意に通り過ぎた風に、翡翠色の絹糸のような髪が流れるように靡いた。
つい目を奪われて、頼久は傍らを歩む泰明へと顔を向ける。
「どうした?」
「いえ…」
見惚れていたとはとても言えなくて、頼久は曖昧に言葉を濁す。
そんな反応は常のことなので、泰明も気にせず視線を前方に戻した。
「それで、何処の店に行くのだ?」
「先日、神子殿に伺った店にしようかと思っております」
食事が美味しく、内装もお洒落な雰囲気で、デートにはお勧めなのだそうだ。
しかし、それは口にしない。
久々に泰明の仕事が早く終わったこの日、ふたりで食事をしに行くことにした、それだけのことだ。
自分にそう言い訳しつつ、再びそれとなく泰明を見やる。
今日の泰明は襟元がゆったりとした黒のシャツに、黒のジャケット、黒のパンツを纏った黒一色のいでたちである。
その服装は男性のものだが、ほっそりとした身体つきと、繊細に整った美貌、梳き流したままの長い髪が、背の高い女性とも見紛う。
それでいて、稀有な色違いの瞳に宿る強い光と、凛と背筋を伸ばして歩む姿からは、清廉さはあっても、女性的な甘さは全く感じられない。
性別不詳の神秘的な雰囲気が、ある種の色香を醸し出し、否応なく人目を引いてしまう。
だから、モデルなどにスカウトされてしまったりするのだ。
頼久にとって、泰明は自慢の恋人であるが、あまり多くの人目に晒したくはないというのが正直な気持ちだ。
出来得るなら、誰にも穢されることのないよう、常に自分の手の届く場所に置いて守りたい。
泰明は守られるほど弱いひとではないし、そのようなことを思うのは、己の勝手な独占欲なのだと分かっているのだが。
しかし、危ういのは、泰明自身が衆目に疎いということだ。
悶々と考える頼久は、背の高い美丈夫である自分が、泰明に寄り添っていることで、
一層人々の注目を集めてしまっていることに全く気付いていない。
そんな頼久の様子を、泰明は怪訝そうに見るが、時折頼久が考え込むのも常のことなので、さして気にしない。
そのとき、先程よりも強い風が吹き過ぎ、泰明の髪を大きく舞わせた。
「…!!」
その拍子に、髪に隠されていた白く細い項が露わになり、頼久は真っ赤になる。
次の瞬間、この項が衆目に晒されていることに気付き、思わず身を乗り出した。
「泰明殿!」
「…っ?!どうしたのだ?」
突然後ろから抱きすくめられる形となった泰明が、流石に驚いたような声を上げる。
「い、いえ…申し訳ありません」
そう言って、頼久は腕を離そうとするが、また、不届きな風が吹いてくるかもしれないと思うと、どうにも離し難い。
しかし、京にいた頃、泰明は常に長い髪を結い上げて、項を露わにしていた。
見慣れていた筈なのに、今、こうして露わになると、何故、これほど動揺してしまうのだろう。
細い身体を抱き締めていると、仄かな香りが漂ってくる。
清しくて、僅かに甘い…花のような泰明の肌の香りだ。
その香りに鼻腔をくすぐられると、つい、泰明と過ごす夜を思い出してしまい、頼久は更に動揺する。
ふわりと、再び風が動き出そうとする。
気付けば、頼久は泰明の細い首筋に顔を埋めるようにして、より一層強く泰明を抱き締めていた。
風から、泰明を守ろうとしたのか。
それとも、ただ、己が泰明に誘われただけなのか。
「よ、頼久?」
立て続けの不意打ちに、泰明の声も動揺で僅かに震えた。
翡翠色の絹糸の合間から覗く項が、淡い桜色に染まっている。
匂い立つ花の香りに包まれ、頼久は軽い酩酊状態に陥る。
「頼久、身体具合が悪いのか?」
「…いえ、大丈夫です」
見当違いの問いを口にする無邪気な泰明に、小さく笑う。
そうして、泰明の耳元で囁くように言った。
「食事へ行くのは今度にしませんか?」
「?今度?」
「ええ、今日は真っ直ぐ家へ帰りましょう。宜しいでしょうか?」
「頼久が言うのなら、私は構わない」
「有難うございます」
耳元に触れる吐息がくすぐったいのか、腕の中で身じろぎながらも、素直に頷いた泰明の身体を、頼久はようやく離す。
ただ、細い手だけは離さずに、そのまま引いて、今までとは逆の家路を辿り始める。
道を過ぎる人々がひとり残らず、目を丸くして、自分たちに注目している。
しかし、花の魅力に捕らわれた今の頼久には、それらの視線は全く気にならなかった。
第五弾はよりやすです。
早々に、青龍組が出揃いました。
やっすんの項は、京版のように、無防備に晒しているのも危なっかしくてオイシイのですが(笑)、
下ろし髪の合間から覗くというのも何とも色っぽくて、オイシイです!!
チラリズムの美学!!(違)
が、思ったよりもいかがわしい出来になってしまい。
これじゃ頼久が大変なムッ○リですよ…(元から?/笑)
この調子じゃ、帰宅後の食事は、普通の食事じゃないかもね!!(黙れ)
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