企画 参★天真×泰明(パラレル)
ある日、天使が降ってきた。
それは粉雪舞い散る冬の日のこと。
「さみー…」
呟きながら空を見上げた天真の目に、何か白いものがひらひらと舞い落ちてくるのが見えた。
雪ではない。
落ち方が違う。
何より、今降っている雪より大きい。
それがちょうど目の前に落ちてきて、天真はそれを手に取った。
雪のように真っ白で大きな羽根。
「…何だあ、これ?」
こんな雪の日に、こんなものが降ってくるなど。
それにしても大きな羽根だ。
「どんだけのサイズの鳥だよ…」
呆れ半分で呟く天真の目の前に、同じ羽根がもう一枚。
かと思ったらもう一枚。
「何だあ?」
見上げた天真の目に、今度は降って来る人の姿が目に入った。
「…って、おい!!」
手にした羽根を放り出し、天真は慌てて駆け出す。
スライディングするように受け止めた身体は意外なほど軽かった。
腕の中でふわりと白い羽根と翠色の絹糸が舞い上がった。
「お前、名前は?」
「…ヤスアキ」
雪の日に空から降ってきた天使はそう名乗った。
雪のように真っ白な肌と、翠と橙の色違いの瞳。
人形のように綺麗な顔立ちを鮮やかに縁取る、翠色の真っ直ぐな長い髪。
白い服を纏ったほっそりと華奢な身体と、その細い背を覆わんばかりに大きく広がる真っ白な羽。
噂には聞いていたが、天真は天使がこれほど綺麗だとは思っていなかった。
それともこのヤスアキだけが特別なのか。
ヤスアキは羽に傷を負っていた。
その為にバランスを崩し、空から落ちてしまったのだ。
そこで、天真はその傷を手当してやった。
傷に薬を付けると、ヤスアキは痛そうに細い眉を顰め、きゅっと目を瞑る。
その様子は小さな子どものようで可愛らしく、完璧な美貌に似合わないようで良く似合った。
「少し我慢しろよ。折れてはいないみたいだから、すぐ直る。大丈夫さ」
そう話し掛けると、瞬きをして天真を見詰め返す。
名前を名乗っただけで殆ど話さない無口なヤスアキ。
見知らぬ人間を少し警戒しているようだ。
しかし、温めたミルクを差し出すと、一口含み、嬉しそうににっこり笑った。
気に入ったらしい。
まさに天使の微笑だ。
思わず、翠色の頭を撫でてやると、くすぐったそうにころころと笑った。
天使は傷が治って飛べるようになるまで、天真の部屋で暮らすことになった。
ヤスアキはすぐに天真に懐いた。
相変わらず口数は少なかったが、その無邪気で可愛らしい仕種や、時折見せる笑顔に、心が癒される。
天真の部屋に天使がいるのは秘密だった。
だが、天真は仕事が終わると、すぐに帰宅することが多くなった。
友人は、付き合いが悪くなったと文句を言ったが、天真は一向に構わなかった。
家には、ヤスアキがいる。
一刻でも早く家に帰って、ヤスアキの綺麗な姿を見て、彼の澄んだ瞳を見詰めて話をして、柔らかな髪に触れたかった。
何時の間にか、ヤスアキに夢中になって、だから、天真は忘れていたのだ。
ヤスアキがいるのは、傷が治るまでのほんのひと時だということを。
雪が解け、徐々に暖かくなってきた冬の終わりのある日。
帰宅した天真を、音にならない沈黙が出迎えた。
昼間いつもヤスアキが座っていた居間の窓辺。
そこは無人で、開いた窓から吹き込む微風に、カーテンが緩やかにはためいているだけだった。
窓際に何かが落ちている。
白い大きな羽根が一枚と。
「…花?」
名も知らない小さな。
咲いたばかりのものを摘んできたのだろうか。
「…は…置き土産のつもりかよ……」
羽根と花を手に、天真はふらりと近くの壁に寄り掛かり、ずるずると床に座り込んだ。
立てた膝に肘を突いた腕で、頭を抱え込む。
いなくなってから初めて気付いた。
自分はヤスアキに恋していたのだ。
しかし、ヤスアキは天の世界の住人だ。
…元々人とは住む場所が違う。
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
やがて、春が来て、花盛りの季節となった。
部屋の窓からも色とりどりの花が咲き乱れる外の様子が見えたが、天真の心には響かなかった。
気が付けば、心は冬へと逆戻りする。
天真にとっては、ヤスアキがいた冬の雪景色こそが最も美しい情景だった。
あの日から胸に穴が開いたような気がして仕方がない。
表向きは以前と変わりなく振舞っていたが、部屋でひとりになると、どうしようもない虚しさをもてあます。
ヤスアキが最後に残していった花はとうに枯れてしまった。
この手に残っているのは白い羽根一枚きり。
ある日、ぼうっとそれを見詰めていると、小さな羽ばたきの音が聞こえた。
…テンマ。
聞こえ始めた鳥の囀りの合間に、そんな呼び掛けが聞こえて、天真は顔を上げる。
窓辺で、白い小鳥が鳴いている。
「…気のせいか」
自嘲の笑みを漏らして、視線を戻した。
幻聴を聞くなど、かなりの重症だ。
しかし。
「天真」
今度ははっきりと聞こえた。
それと共に、微風が吹き寄せてきて、天真はもう一度窓辺へと振り返る。
瞬間、窓辺で囀る小鳥の姿が霞んで、窓辺に腰掛ける華奢な天使の姿となった。
翠色の真っ直ぐな髪がふわりと靡いて。
その背に真っ白な翼を広げている。
そうして、翠と橙の瞳で天真を見詰めて、微笑んだ。
その瞬間。
窓の外、微笑むヤスアキの背後の景色が変化した。
色鮮やかに美しく。
さっきまでは見向きもしなかった花なのに。
今は雪と同じくらい美しく見える。
そして、真っ白な雪も似合っていたが、色とりどりの花もヤスアキには良く似合うな、と考えた。
我ながら現金だ。
内心苦笑しながら、天真は腕の中に飛び込んできた彼だけの天使を抱きしめた。
企画第三弾は、てんやすです。
やっすんが天使というパラレルです。
パラレルじゃなくてもやっすんは天使だけども♪←ああ、本気だとも!(笑)
しかし、パラレルは短く纏めるのが難しいという罠(汗)。
展開が慌しくて申し訳ありません。
なるべく会話はカットして、天真視点で書いてみましたが…どうですかね?
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