企画 弐★永泉×泰明 「あちらは…」 ふと、通りに並ぶショーウィンドウのひとつに目が留まる。 飾られているのは、白い衣裳だ。 上半身はぴったりとして、逆に下半身は大きく広がって、地に引きずるほど裾が長い。 ところどころに真珠を縫い付けた細かな刺繍と透かし模様の布をたっぷり使用して作られた衣裳は、 色彩的な鮮やかさはないものの、清楚な品があり、華やかで美しかった。 そして、何かの折に神子が目を輝かせながら、語っていたことを思い出す。 「ああ…こちらが「うぇでぃんぐどれす」なのですね…」 ショーウィンドウの前で、永泉は納得したようにひとり呟く。 神子の話によると、結婚の儀式や露顕(ところあらわし)で、妻となる女性が身に纏う特別な衣裳であるらしい。 しかし、これだけの衣裳を数えるほどしか纏わないというのも惜しい気がする。 だからと言って、何度も結婚をするのは論外だろうが。 そんなことを考えるともなしに考えているうちに、想い人のことが頭に浮かんだ。 この衣裳は泰明にも似合いそうだ。 女性用とはいえ、泰明のほっそりとした身体なら、充分入るのではないだろうか。 広がる裾も相俟って、細い腰が更に際立ちそうだ。 泰明の滑らかな白い肌も、光沢のある白い布地にさぞや映えることだろう。 何より、清楚な雰囲気が、無垢で清らかな泰明に似合うに違いない。 もちろん、泰明は世間一般常識からすれば、「花嫁」にはなりえないのだから、こんな想像自体無意味なのだろうが。 しかし、永泉としては、可能ならば、泰明を是非にも「花嫁」にしたい気持ちなのである。 そんな妄想に耽っていると、 「何をしている?」 不意にその想い人の美しい顔が、ショーウィンドウのガラスに映って、永泉は仰天する。 「やっ、泰明殿!」 慌てて振り返ると、黒の簡素な衣服を纏った泰明が、細い腰に片手を当てて佇んでいる。 「何をぼんやりしていたのだ?」 「えっ…いえ、あの…こちらの「ウェディングドレス」を……」 美しい眉を寄せて怪訝そうに問うてくるのに、永泉はついしどろもどろになってしまう。 永泉の言葉に、泰明はついと視線を動かして、目の前のショーウィンドウに飾られたドレスを見る。 「この衣に興味があるのか」 言うなりくるりと身を翻し、店の入り口へ向かって歩き出す。 「おっ、お待ちください!泰明殿!!」 永泉は慌てて縋り付くように、泰明の腕を捕まえて引き止めた。 すると、泰明が再び怪訝そうな表情で問う。 「あの衣が欲しいのではないのか?」 …やはり。 想像通りの誤解をしていた泰明を引き止めることが出来た己に少しばかり安堵しつつ、永泉は首を振る。 「私自身が欲しいから、あのドレスを眺めていた訳ではありません」 「?では、何故だ?」 「それは…」 色違いの瞳に真っ直ぐ見詰められて、永泉は顔を赤らめる。 理由を口にするのは恥ずかしい。 しかし、ここで黙り込んでは、泰明は納得しないだろう。 まず簡単に、ウェディングドレスについて説明すると、永泉は思い切って告げる。 「あの美しいウェディングドレス…衣裳が、きっと貴方に良く似合うに違いないと思って…見惚れていたのです…」 「私に…?」 頬を染めたまま、僅かに顔を俯けがちにしてどうにか答えを返すと、泰明は意表を突かれたように、瞬きを繰り返した。 もう一度、件のドレスを見遣り、かすかに細い眉根を寄せた。 「動きにくそうだな」 「…そ、そうですよね…すみません……」 現実的且つ素っ気無い一言に、思わず永泉は肩を落とす。 実に泰明らしい言葉にがっかりしたのではない。 泰明がこうしたことに疎いのは充分承知しているし、特別な反応を期待していた訳でもない。 ただ、ひとりで勝手に夢を見ていた自分にがっかりしたのだ。 「だが…」 しかし、不意に耳に滑り込んだ低くも澄んだ声に、永泉ははっと顔を上げる。 そんな永泉に、泰明がほんのりと笑んでみせる。 「お前が望むのなら、着ても構わぬ」 その花のような微笑みの何と清らかで可憐なことか。 「泰明殿…有難うございます」 思わず微笑み返しながら、噛み締めるように言うと、泰明がちょっと首を傾げる。 「礼を言われるようなことはしていない」 「そのようなことはありません」 永泉は笑みを深めながら、そっと泰明の華奢な手を包むように握る。 「今でなくとも構いません。いつか…私のためにウェディングドレスを纏ってくださいますか?」 「今でなくとも良いのか?」 「ええ。今はまだ早いと思いますので」 「?分かった」 少し不思議そうにしながらも、泰明は素直に頷いてくれた。 こんなに綺麗で可愛いひとだから、何時誰かに奪われてもおかしくないと、焦る気持ちもないではない。 しかし、焦る前にまず、自分がこのひとに相応しい人間にならなければ。 誓いの儀式はそれからだ。 秘めた決意を胸に、永泉は泰明の細い手を捧げ持ち、その整った指先にそっと口付けた。
企画第二弾は、えいやすです。 ふと思いついたウェディングドレスネタ。 やっすん宇宙一の花嫁になりそうだよねえ♪ そして、やっすんをお嫁に出来るヤツは、宇宙一の幸せ者!! …やす受好きの戯言です、すみません(笑)。 ちなみにうちのやっすんは、男でも女でもないので (精神的に←個人的には心身ともにでも一向に構わないが/笑)、 女装は好きじゃないけど、抵抗はないスタンスです。 戻る