企画 壱★詩紋×泰明 小さな水音が聞こえた。 「何だろ?近くに泉か池でもあるのかな?」 森の中を散歩していた詩紋は、その音に惹かれて進行方向を変える。 青々と繁って重なり合う木々のトンネルを潜り抜けると、潅木の小さな繁みの向こうに、泉があるのが見えた。 そこで水浴びをしているらしき人の姿も。 先ほどの水音はこの音だったのだ。 その人の姿に詩紋は思わず息を呑む。 明るい陽の光を反射して、水面をきらきらと輝かせる綺麗な泉。 そんな景色に負けないほど綺麗なひと。 詩紋はこのひとを知っていた。 (泰明さん…) しかし、声を掛けるのを忘れてしまうほどに、見惚れてしまっていた。 いつもしっかりと結い上げて、右耳の上で纏められている髪は解かれ、白い単衣を纏った細い肩や背中、更には輝く水面の上に流れている。 しっとりと水を含んだ翡翠色の髪も、陽に艶やかに輝き、ところどころに纏わらせた細かな水飛沫が更なる光の彩りを添えていた。 濡れて肌に貼り付いた単衣が、細い身体の線をいっそう際立たせている。 薄い布地越しに、透けて見える滑らかそうな白い肌。 それを意識した途端、詩紋は真っ赤になった。 慌てて身を隠そうとするが、気配に気付いた泰明が顔を上げるほうが早かった。 「詩紋?」 濡れた髪がひと筋ふた筋、頬に纏わり付いているのを邪魔にするでもなく、僅かに首を傾げて名を呼ぶ姿がまた綺麗だ。 しかし、ただ綺麗なだけではなくて… 詩紋はますます真っ赤になった。 「ご、ごめんなさい!!」 叫ぶように言って、これ以上泰明の姿を見てしまわないよう、両手で顔を覆う。 「何故謝る?」 僅かに怪訝そうな響きのある澄んだ声が耳に届く。 「だって僕、勝手に泰明さんの水浴びを覗いちゃって…」 「それが謝るようなことか?それに、水浴びではない。禊だ」 静かな声と共に、水音が近付いてくるのに気付いた詩紋は、赤い顔のまま、ぎゅっと目を瞑って両手を突き出す。 「待って、泰明さん!!僕、後ろを向くから!!」 「何故だ?」 泰明の問いに応える余裕もなく、詩紋は後ろを向く。 「はい、大丈夫ですよ!」 本当は、この場を立ち去ったほうがいいと思うのだが、情けないことに足が動かない。 「…分からぬことを言う」 そう言いながら、泰明が水を上がってくる気配がする。 続いて重い衣擦れの音が聞こえてきて、詩紋は思わず緊張して身を硬くしてしまう。 その様子に泰明が気付いて、僅かに柳眉を顰めたが、背を向けていた詩紋は、当然ながら気付かない。 (…もう良いかな?) ころあいを見計らって、詩紋はそっと振り返る。 が、 「わっ!!」 再び、顔を赤くして前に向き直る羽目になる。 泰明は濡れた衣を脱いで、乾いた布で身体を拭いている最中だった。 周囲の緑に映え、陽に眩しいほど輝く肌がすっかり露わになっている。 「どうしたのだ?」 「ごめんなさい!着替え終わるまでこのままでいますから…」 耳まで熱くなっているのを感じる。 きっと目に見えて赤くなっているに違いない。 (やだなあ、もう、恥ずかしいなあ…) 何よりもここまで赤くなった顔を、泰明に見られたかもしれないことが恥ずかしかった。 と…、 「そのようなことをせずとも良い。私が去る」 思い掛けない言葉が耳に入った。 「え?」 思わず振り返ると、泰明は着替えも途中のまま、すたすたと歩き出していた。 「ど、どうしたんですか?!」 慌てて問うと、一瞬立ち止まり、素っ気無い口調で応える。 「私が目障りなのだろう?目に入れたくないほどに」 だから去るのだ、と言って、長い睫を伏せる。 「え?!」 何処か傷付いたような表情に、詩紋は驚き、更に慌てる。 「泰明さん、待って!!違うんです!!」 一瞬恥ずかしさも忘れて、また歩き出そうとする泰明を追い掛ける。 回り込むようにして、泰明の前に立ち、もう一度泰明を立ち止まらせた。 「違うんです!!僕は泰明さんが嫌で見ようとしなかった訳じゃなくて… ただ、こんなところを誰かに見られたりするの、泰明さんのほうが嫌なんじゃないかと思って…」 泰明が怪訝そうな顔をする。 「私は一言も嫌だとは言っておらぬ」 「そ…それはそうなんですけど…」 泰明を前にすると、また恥ずかしくなって、顔を伏せてしまいそうになる。 しかし、それをやってしまうと、また泰明を誤解させてしまう。 それよりもまず、今の誤解をどうやって解いたら良いのだろう。 耳元で鳴るような鼓動がうるさい。 それでも、詩紋は顔を上げて、きっぱりと言った。 「僕が泰明さんを嫌がるなんてこと、絶対にありません」 泰明の表情が僅かに和らいだ。 しかし、まだ納得できない様子でもあった。 詩紋は困り果ててしまった。 着替え途中で移動しようとした為、泰明は無造作に単衣を羽織ったままの姿だ。 中途半端に合わせたままの襟からは肌理細かな胸元が半分近く覗いている。 気が付けば、腕を伸ばして単衣の襟に触れていた。 「僕が泰明さんを見ようとしなかったのは…」 「詩紋?」 近付いた泰明の綺麗な瞳が、驚いたように丸くなる。 大きな瞳を瞠るその表情が可愛らしいと頭の片隅で思う。 「こうしてしまいたくなるから」 泰明の白い白い胸元に、小さな紅い華が咲いた。
企画一発目は、しやすです。 詩紋のやっすんによる「性の目覚め」(逝け!!)。 元ネタはピンと来た方もいらっしゃったのではないでしょうか。 今は懐かし「は○か通信」に掲載されていた、詩紋が禊中のやっすんを女の人と間違えて、 どきどきしちゃう(間違えてはいないはず/笑)というコミックが元になっています。 やす受好きとしては超ツボなお話でした♪ 我慢しきれず、ついにネタとして使ってしまったという…(苦笑) 戻る